瓦版2024.07.23 第715号 神野直彦さんら10人のコラム掲載。

 早暁、近所にやってくるシジュウカラの甲高い鳴き声をよく耳にします。ツピ、ツピ、ツピピ……と、何ともかわいい。そこにセミの声が重なり始めました。まだ、夏真っ盛りの「暑いぞ、ミーン、もっと暑くなるぞ、ミーン」という苛烈さはないけれど、命の危険のある酷暑への覚悟を、じんわりと迫ってくるかのようです。いよいよ、夏本番です。

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『緑と絆の木陰』

京への旅

神野直彦 (東京大学名誉教授 スローライフの会顧問)
古き都、京都に旅すると、うら悲しき哀調を覚える。ところが、龍谷大学で2日間の講義をするために降り立った京都は灼熱の街と化していた。しかも、気候が灼熱化しているだけではなく、京都の街は人間の熱気で漲(みなぎ)っていたのである。
昔懐かしい哲学的な雰囲気を醸し出している京都の独特の小路も、渋谷の交差点を彷彿とさせる人の波で溢れている。その多くが、くつろいだ浴衣などの和服を身に纏っているのに、明らかに日本人ではなく、遠方より来たりたる外国人である。日本人はといえば、人力車を引く車夫と、土産物屋の店員ぐらいしか目に入らない。
ところが、龍谷大学の講義室に足を踏み入れると事態は一変した。灼熱の窓の外とは打って変わって、龍谷大学の方々の優しき温もりに包まれていたからである。
私の講義の受講生は1日目が100名、2日目が150名と聞いていた。しかし、実際に講義室に行くと、受講者の人員が多い気がした。それは他大学の学生でも聴講可能とする処置が取られていたので、京都大学をはじめとする周辺の大学の学生が受講してくれたからであった。
それより驚いたことには、教室に懐かしき顔が溢れていたことである。京都や大阪の研究者が聴講に足を運んでくれたからである。私の教え子もいたけれども、私と研究を共にした同僚、さらには私が指導を仰いだ偉大な先生まで集まっていただいた。まさに、「朋有り、遠方より来る、また楽しからずや」である。
年を取ると、「生」を「共」にしてきた人々と、会えることが至福の時となる。しかし、また会えることを願いながらの別離は辛い。私が京都を離れた日は、祇園祭の山鉾巡行の日であった。私は祇園囃子の笛太鼓を聞きながら、うら悲しき心を抱いて新幹線の座席に腰を下ろしたのである。

 

<あっちこっちで多事争論>

「終の棲家」の家賃
ほんだゆかり (静岡市 静岡スタイル代表)

還暦を前に家を断捨離。7部屋3階建てを売って「5坪の家」を建てた。この家の総費用は土地・建物合わせて10,596,707円。もし日本人女性の平均寿命84.45歳まで、この家で暮らしたとしたら、1カ月分の費用は35,322円。90歳まで生きたら29,435円、100歳だったら22,076円になる。長生きしたいものですな~。
5坪の家にはいろいろ仕掛けがあって、私なりのスローライフを楽しんでいる。裏庭ガゼボ(西洋風あずまや)や食べられる庭(いちじく、ぶどう、ビワ、ニラ、みょうが、いちご各種、ブルーベリー、オクラ、トマト、きゅうり、なす、とうがらし・・・)、「手動」太陽光発電や雨水貯水タンクもあって災害にも強い。そしてIT関連の仕事がら、ちゃんとしたスマートホームなのだ。
「知らない人でも見に来ていいよ~」とオープンハウスをすると、たくさんの人が見学に来る。小ささを実感して、ご自分たちの家づくりの参考にという人が多い。スローライフをかなえる5坪の家。見学しにきませんか?
※スマートホームは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などを活用した住宅のこと。動画もご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=j-41E3zYTZI

ブログ・https://dooq.com/

土の恵みとともに歓びあう
中野 修 (大阪府豊中市 スローライフの会会員)

市民農園で5月に植え付けたナスの成長が思わしくなく、近所の畑の元気なナスを見ては、やきもきしていました。私の育て方が間違っているのか、このまま枯れてしまうのではないか、それなら早期に撤収して別の苗を買ってこようか、と。
そんなとき、ふと自らの心中に問うてみました。弱々しい苗に自分がいら立っているのか、近所の元気なナスを見て焦っているのか、道すがら私の苗を見た人の評価を気にしているのか……。
「他者と比較せず、自分で考え、答えをみつけ、行動すること」「多様性を認め合い、寛容であること」。これが今の時代及びこれからの時代をしなやかに生きるキーワードのようです。
スローライフを考えつつ、以前、私の心得としたことが揺らいでいることに気づきました。そして、もう一度、ナスの苗たちをじっくり見つめると、とても愛らしく思えてきました。
「まだまだ枯れないよ、がんばって花を咲かせ、実をつけるから見ていてくださいね」。そんな苗たちのささやきが聞こえてきました。
「育てる」「育む」「見守る」「寄り添う」「ともに歓びあう」。野菜たちが、心の穏やかさを呼び戻してくれました。
ささやきのとおり、ナスは育っているようです。

チカイナカ越谷の夏休み
小松崎いずみ (埼玉県越谷市 スローライフの会会員)

私の住むベッドタウン越谷市。越谷レイクタウン駅から流れるように人が大型ショッピングモールに吸い込まれて行く。快適な場所で散歩をしながらのショッピングは楽しい。小学校2年生になる孫は、毎日のように生きものを捕まえてきては飼いたがる。カメ、カナヘビ、スズメの雛、ヘビの卵。
カナヘビは卵を産みまもなく孵化する。ペットショップに餌を買いに行くとヤドカリも欲しくなり、駄々をこねる。夏休みは捕まえる時間が増え、カブトムシ、クワガタを捕まえてくるだろう。自宅はペットタウンになりそうだ。
世話をするのは私、成長を見守るのは孫、毎日の忙しさが増しているが、生きものが元気な姿を一緒に見るのは楽しい。でも、心の何処かで「どうか捕まえて来ないで」と願っている私もいる。

地獄絵の掛け軸を
笠原俊典 (滋賀県長浜市 僧侶)

はじめまして、滋賀県長浜市にある「持専寺」というお寺の僧侶をしています。私共のお寺では、毎年8月15日に、往生要集(六道絵)と呼ばれる掛け軸15幅を展示しています。地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天人という世界観で構成される地獄絵は、現代における暴力、虐待、偏見、差別などが象徴的に表現されているかのように、我々に突き刺さってきます。衆生(人間など)とは、それらの世界を輪廻して、どこまでも救われることがないと教えられますが、時代を経て知識を得てもなお、悲劇は繰り返されるのでしょうか、学び得ることはできないのでしょうか。
さて、誰もが目を覆いたい事柄ではありますが、これもお寺の役割と承知しています。

雲仙人のおすそわけ
高橋征吾 (東京都 スローライフの会会員)

7月のさんか・さろん『雲仙人奮闘記』に参加しました。食い意地が張っているせいか「ドラム缶ピザ窯」や「野菜ぷりん」などに食指が動きつつ、「いま住んでいる人たちが楽しく」をモットーとする活動に大いに共感を覚えました。
拝聴して思ったのは、この取り組みが筑紫哲也著『スローライフ』(岩波新書)にある7つのルール(「自発性こそが全ての出発点であり、命である」「ゆるやかな結びつきを組織原理とする」「『快』『楽』を最優先にしよう」「他の『同好』のグループとの結びつきは、『水平型』『ネットワーク型』を目指し、上部組織-下部組織の『垂直型』を採らない」など)の精神を見事に体現されているということです。市の事業から市民の活動に転じられたそうですが、参加者の自発性を活かすという意味で英断だったと思います。楽しさというのはなかなか上からの指示では出てこないものですから。
エライ人たちが「地域活性化」のスローガンを、それこそ「所得倍増」や「高度成長」のように必死に唱えてきましたが、最も必要なのはこの「楽しさ」だったような気がします。田舎暮らしに興味があったり、介護や家業の継承で故郷に帰らなければいけなかったり、世の中にはさまざまな人がいるでしょう。そのときに「帰りなんいざ」とまなじりを決しなくても、過疎を嘆くより楽しさを「おすそわけ」してくれる仙人様がいてくれれば、きっとIターン・Uターンをする人の背中を優しく押してくれることでしょう。

 

捨て難いもの処分
遠北剛 (広島市 スローライフの会会員)

思いっきりの断捨離から2年経過、ゴルフ用品も釣り道具も、登山、スキー用具もすべて捨てた。捨てがたく悩んだのが書物、全集物は失ってもさほど寂しく感じないが、一人暇潰しに身近にいてくれる本は、多くの友だちが傍にいるようで孤独から解放される。

その中で一番くだらないのが映画情報雑誌、全くの役立たずの無用物であるが、映画好きだったボクの精神衛生上、生活の中で何らかの役割を果たしていた。その役立たずが婿入りすることとなった、音楽、映画好きの人が集まる茶房の主人が歓迎すると言う。別れを惜しみ、映画音楽を聴きながら印象に残った名画を思い出している。

全国水源の里フォトコンテスト
北島武虎 (京都府綾部市 集落支援員)

全国水源の里連絡協議会では、7月1日よりフォトコンテストの作品募集をしています。グランプリの賞金は20万円です。
私たちの組織は、過疎高齢化が進み、維持が困難な集落を「水源の里」と位置づけ、「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」という理念のもと、集落再生に向けた様々な取り組みを行っています。
今年で16回を数えるフォトコンテスト開催もその取り組みの中のひとつです。四季折々に変化する景色や、どこか望郷の念を抱かせる里の姿、美しさだけでなく、儚さや畏怖さえも感じさせる山水、そこで暮らす人々の何気ない営み、祭事……。そんな日本各地に点在する水源の里を広く知っていただくことが大切と、全国の水源地や山里の魅力が表現された写真作品を広く募集しています。
フォトコンテストはプロ、アマを問いません。詳細につきましては、当協議会公式ホームページよりご確認ください。このホームページでは過去の入賞作品もご覧になれます。この機会に水源の里の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
〈全国水源の里連絡協議会HP〉https://suigennosato.jp/
全国水源の里連絡協議会 フォトコンテスト事務局
TEL:0773-42-4271 E-mail:teijyukouryu@city.ayabe.lg.jp

『スローライフ曼荼羅』

開くか、閉じるか

野口智子(ゆとり研究所)

きれいな庭のお家、「どうぞご自由に」と。いわゆるオープンガーデンです。開放された個人のお庭で花々に囲まれて、立ち寄った人たちが集います。
一方、別の通りは、いわゆるシャッター通り。シャッターを開ければ、元のシューウィンドウなどがまだあるのでしょう。そこに、写真や、絵などを飾ったりすれば、商売をしなくても道行く人が楽しくなるのでは。自分の世界を他者に開くのか閉じるのか。その選択に街の未来がかかっていると、北海道池田町を歩きながら思いました。
https://noguchi-tomoko.com/post-10442/

「つべ小部屋」

また、呑気に騒ぎますか
つぼいゆづる (スローライフ瓦版編集長)

根っからのスポーツ好き、お祭り野郎である。高校時代までは、それなりに運動していたし、いまも野球やラグビー、サッカーなど面白そうなものは片っ端からチェックしている。だが、今週から始まるパリ五輪にはワクワクしない。おそらく日本のメディアは「五輪一色」に染まるのだろうが、無邪気に騒ぐ気には到底なれない。
年齢のせいもあるのだろうが、やはり戦争中というのが心に引っかかる。ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日は、北京冬季五輪の閉幕4日後だった。さも、「平和の祭典」が終わるのを待っていたかのような侵略だった。あれから、いくつの街が廃墟になり、何万人が殺されたのか。
さらに、天井のない監獄「ガザ」でも大量虐殺の地獄絵が展開されている。子どもたちの泣き叫ぶ映像を見ない日はない。それなのに、世界中から五輪期間中の停戦、休戦を求める声が澎湃(ほうはい)と沸き上がることもない。なぜ、なのだろう。
もうひとつ、あの東京五輪の後味の悪さも五輪への興味を確実に減衰させている。コロナ禍で1年先送りしたあとに無観客で挙行したが、どうにも盛り上がらなかった。ちっともコンパクトではなかった挙句に、あれほど大規模な贈収賄事件、スキャンダルの連鎖である。
だからもう胸中に、五輪といえば「平和」よりも「お金」という印象の方が深く刻まれてしまっている。そんな思いで、元同僚の稲垣康介・朝日新聞編集委員が月刊誌「世界」7月号に書いた東京五輪に関する考察を読んでいたら、あっと思う一文があった。
「三年前の東京五輪で金メダルを取った日本人選手をフルネームで言える国民が、果たしてどれだけいるか」。私は言えない。みなさんはどうですか。

<編集室便り>

▽11月9日(土)・10日(日)フォーラムです。
この秋、11月は高知県梼原(ゆすはら)町でフォーラムです。取り急ぎ、早めに航空券などを確保なさってください。
・名称:「スローライフ・フォーラムinゆすはら」
・場所:高知県梼原町「ゆすはら座」で
・テーマ:「集落と、若者と」
・11月9日(土):町内「集落活動センター」2カ所、隈研吾設計・図書館、「茶堂」などを見学。夜は「夜なべ談義」で交流。
・11月10日(日):午前中「分科会」川竹大輔、坪井ゆづる。午後「シンポジウム」高知県知事、梼原町長、増田寛也、中村桂子、神野直彦。
詳しくはこちらから⇓
https://www.slowlife-japan.jp/2024/07/02/%ef%bd%93-309/
※空港と梼原町の往復は、事務局が大型バスをチャーターします。
※陸路の方は、JR高知駅に上記のバスを往復つけます。
※宿泊は、事務局が確保した梼原町の民宿など、安価な宿泊施設となります。
ご参加、お問合せはまずメールでご連絡ください。メール slowlifej@nifty.com

 

▽会費がまだの方、入金をお願いします。お待ちしております。
少々しつこいようですが、今年度の会費や「さろん参加費」がまだの方、あなた、あなたです、お待ちしております。

また、この際、新規会員ご希望の方は、まずメールを。 slowlifej@nifty.com
・年会費:一口 5000円(何口でも)
・「さんか・さろん」参加費:年間 3000円(年間支払いでない場合、会員は一回1000円、非会員は2000円です)
年会費+3000円=8000円のお振込みの方が多いです。

※「さろん」年間カリキュラムはこちらから https://www.slowlife-japan.jp/2024/03/28/%ef%bd%93-297/
会員は「スローライフ瓦版」に投稿できるほか、「さろん」「フォーラム」などの催しに安く参加できます。
この会は皆様の会費とボランティア作業で運営しております。今後の活動に向けてぜひご協力ください。
・振込先
ゆうちょ銀行 振替口座 00190-4-595293 スローライフの会
※他金融機関からのお振込みの場合は
店名:〇一九(ゼロイチキュウ)店、預金種目:当座  口座番号:0595293、スローライフの会 まで。

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「NPOスローライフ・ジャパン、スローライフ学会」は昨年12月、名前が「スローライフの会」に、住所も変わりました。よろしくお願いいたします。

〒160-0022 東京都新宿区新宿2丁目12番13号
新宿アントレサロンビル2階「スローライフの会」
メール slowlifej@nifty.com 電話090-7433-1741(野口)

※ご連絡はなるべくメールでお願いします。
※活動詳細はホームページからご覧ください。
http://www.slowlife-japan.jp/